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東京高等裁判所 平成4年(ラ)653号 決定 1992年11月06日

抗告人

冨井榮

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一本件抗告の趣旨及び抗告の理由は、別紙「抗告状」と題する書面のとおりであるから、これを引用する。

二当裁判所の判断

一件記録によると、抗告人は、亡冨井わか(以下「被相続人」という。)の二男であり、平成三年四月二一日、同人の死亡により開始した相続について、遺留分を有する相続人であること、被相続人の相続人は、抗告人、冨井彰(被相続人の四男)(以下「彰」という。)を含め七人であること、被相続人は、生前、冨井彰に別紙物件目録記載の土地(以下「本件物件」という。)を相続させる旨の遺言をしており、彰は、平成三年八月六日、本件物件について平成三年四月二一日相続を原因とする所有権移転登記をしたこと、抗告人は、平成三年七月一八日到達の書面により、彰に対し、遺留分減殺の意思表示をしたこと、抗告人は、彰を相手方として、本件物件について、右遺留分減殺の意思表示により一四分の一の共有持分を取得したことを理由に、右割合に相当する共有持分移転の仮登記を求める仮処分命令を原審裁判所に申請したところ、同裁判所は、右申請を却下する決定をしたことが認められる。

抗告人は、前記遺言による彰への本件物件の所有権移転により抗告人の遺留分が侵害されたと主張するが、右主張の当否につき判断するためには、抗告人の具体的遺留分額を算定する必要があり、右遺留分額は、相続開始時の相続財産の価額に、遺贈、法所定の範囲の生前贈与の各価額を加えた上、相続債務を控除した財産額を基礎として算定することになるので、抗告人は、相続財産の範囲、その価額、算入されるべき遺贈及び生前贈与の存在とその価額、相続債務とその額等について主張し疎明する必要があるものである。

抗告人は、原決定が右の点について疎明を求めたことについて疑義を述べるが、仮登記仮処分命令の申請手続では、申請者の主張や疎明だけで命令が発せられ、重大な利害関係を持つ仮登記義務者(本件物件の所有者)には審尋の機会は与えられないばかりか仮処分命令に対し不服申立ても許されておらず、損害担保のための保証提供の制度も設けられていないことを考慮すると、右仮登記義務者の受ける不利益との均衡上、仮登記仮処分命令の発布を求める抗告人に前記程度の疎明を求めることはやむを得ないものというべきであり、何ら違法不当はないというべきである。

当審において、抗告人は、被相続人の遺産目録、彰の代理人の連絡文書を疎明資料として追加提出するが、右資料を原審で提出された全資料と合わせても、抗告人の遺留分の侵害の有無等について認めさせるには十分ではないというべきである。したがって、抗告は理由がない。

よって、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 伊東すみ子 裁判官 宗方武 裁判官 水谷正俊)

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